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モグラ水道
Photo by skpy
熊野、那智勝浦町の勝浦湾に数十年前まで海中井戸がありました。海岸から120m離れた海中で真水が湧き出ていたのです。
その勝浦港の海中井戸に関する伝承。
むかし、文覚上人が那智の滝で荒行することを思い立って、船で熊野灘をさしかかったとき、一頭の鯨がシャチに追われているのを見た。かわいそうに思った文覚上人は念仏を唱えながら、持っていた杖を投げてシャチを追い払った。
そして陸に上がると、子供たちがモグラをいじめているのを見て、子供たちに金をやり、モグラを逃がしてやった。
さて那智の滝まで来ると、滝壺が深くて中に入れない。
すると、足下からモグラが出て来て「ご恩返しに穴を掘って滝壺の水を減らしましょう」といい、 何千何万というモグラが集まってトンネルを掘り出した。
すると、海では鯨が集まって、トンネルに流れ込む水を吸い込んでは背中から噴き出して、モグラたちが溺れないように手助けをした。
それで、滝壺の水は見る見るうちに減り、文覚上人は喜んで滝壺に入り、荒行をすることができた。
モグラと鯨の共同作業で掘ったトンネルは勝浦湾の海底に通じ、今でもそこから真水が湧き出ている。
◆ 参考文献・参考サイト
下村巳六『熊野の伝承と謎』批評社